人の【縁】とは不思議なモノ、だ。
残り物の野菜をありったけ入れて作った煮込みラーメンを、おいしそうに食べている人。
動物の耳がついたようなパーカーを身に着け、男なのにそれが違和感がない人。
カーキ色の髪に、桃色のメッシュというのも俺にはない考えの人。
最近付けたという七色の髪で編まれたエクステが一本、スープに入るか入らないかくらいの場所で揺れている人。
お腹が空き過ぎてフラつきながら歩いてる所を俺に保護された人。
メンバーの……ナツの兄貴じゃなかったら、間違いなくスルーしていただろう人。
「うんまーーーい。のーやん、料理上手だねぇ」
「ただ煮込んだだけですよ」
「ナツが入り浸ってるのわかる気がす る〜」
「最近はそうでもないですよ」
「あ〜、なんか浮かれてるよねぇ。オレの高級トリートメントとか勝手に使うしさぁ」
「ひどくね?」とか言いながら、またラーメンをすすり始める人。
初めて俺のアパートに来たのにもかかわらず、すっかり馴染んでる人。
俺の事を「のーやん」って呼ぶ唯一の人。
「ちゃんと栄養取って下さいよ。あのままじゃ倒れてたかも知れないし」
「うーん…。今日予約いっぱいでお昼食べる時間なかったんだよね〜」
「パンかお菓子とかつまむくらい出来なかったんですか」
「ん〜〜〜、夢中になっちゃうとね、食べるの忘れちゃうんだぁ」
俺より4つ年上のこの人は、V系の美容院で働いている春生(ハルキ)さん。
夢中になると飲食がどうでもよくなる所は、弟のナツと同じらしい。
以前ナツが「ハル兄ぃとはよく双子に間違われる」と言っていた通り、外見は髪型以外はナツそっくりだ。
性格はナツよりおっとりしてそうだけど、まだそこまで親しくはないからなんとも言えない。
何度かライブに来てくれた時に挨拶した程度だったし、こんな風に二人きりになるのも初めてだ。
初めての割には、気まずさもない。ナツに似てるせいだろうか?
「おいしかったー!ごちそうさまっ!」
「どういたしまして」
「あ〜〜、しあわせ〜」
ごちん、と音を立てて机に突っ伏すハルさんを見て、ビクッとする俺。
スープまで飲み干された丼が揺れて、箸がカランと机に落ちる。
「は、ハルさん……?」
恐る恐る呼びかけても返答がない。
恐る恐る顔を覗き込んでみれば、すーすーと寝息を立てて眠っている顔。
満腹からの睡眠って、子供か!?
余程ギリギリの状態だったんだろうけど、24歳がする行動なのかは疑問に思う。
仲間が泊まる時に使う布団を敷いて、起さないようにそっと横に寝かせて毛布をかける。
ちょっとやそっとじゃ起きないような寝顔を見て更に気が抜けた。
ナツも弟みたいで放っておけないと思ってたけど、ハルさんはそれ以上に強敵なようだ。
放っておけない人、ナンバーワンに仮認定しておく。
幸せそうに眠る姿を見て、不覚にもありあわせの料理ではなく、もう少し手をかけた料理を食べさせたいと思ってしまった、人。
……この【縁】は、どう繋がっていく?
end