■キミとアイドル

 


「のーやん、今夜もボリューミーだねぇ」
「そうですか?」

 

 ハルさんの言葉にとぼけたフリをする。その指摘通りだからだ。
 隠れていた細さに気付いてしまった俺は、おかずの品目を増やしたり、カロリーが高めなメニューを作るようになった。
 自分も柔道を離れてから筋肉が落ちた分細めになっていたので丁度いいなどと思いながらも、変なトコだけ太るのも困るから寝る前の筋トレも再開した。
 おかげで腕周りに少しづつ筋肉が戻ったような気がしている。
 それなのに、食器を洗うためにと袖を捲くったハルさんの腕は細いまま。
 毎日来ているわけじゃないから仕方ないか。

 

「あ!そうだ、忘れるトコだった。テレビつけていい?」
「いいですよ」

 

 食器洗いをぱぱっと終えて、ハルさんは飛びつくようにテレビのリモコンに手を伸ばす。
 画面に映ったのは、俺がめったに見ないアイドル中心の音楽番組。
 顔も名前もわからないアイドル達が並んでいる中の一部を、ぴっと指差すハルさん。

 

「この子達、今夜生放送デビューなんだよね〜」 
「この子達?」
「この二人、俺が担当してる常連さんなんだ」
「へぇ……」

 

 ハルさんの指差す子達は、衣装から判別すると6人組グループのようだ。
 一人の男は背が高くてこれでもかってくらい笑顔を振りまいているが、もう一人の男は小柄でぎこちなく笑顔を浮かべているように見える。
 テレビを見ていたハルさんが足をバタバタさせて笑い出した。

 

「うわぁぁふたりとも緊張しまくってやんの。いつもと全然違う顔してるよ〜!」
「ハルさんの店って、アイドルとかも来るんですね」
「うん。でもアイドルではこの子達くらいかなぁ。アイドルやってるけど、本当はV系ファッションが好きなんだって」
「それなら、ハルさんが担当してるのも納得ですね」
「でしょ?あのね、ここだけのヒミツ。この子達ね、目立たない奥の場所にお揃いの色のメッシュ入れてんの」
「お揃い、ですか」
「本当に仲良しでね〜。ソロの仕事の時は、それをお守りのように思ってるんだって。他のメンバーにも内緒にしてるって言ってたから、誰にも言っちゃダメだよ。ナツにも言ってないんだからね〜」
「言いませんよ。それに、俺の周りのヤツらが興味持つようなネタでもないですし」
「そっか。男だとどっちかっていうと女性アイドルかぁ。のーやんはどの娘が好き?」
「え……」

 

 ……”好き ”……

 

 バチッと、ハルさんと目が合う。
 ハルさんはただ興味津々って顔で俺を見てる。
 それもそうだ。よくある問いかけくらいで意識してる俺の方がおかしいんだろう。
 純粋な興味でしか聞いてない事がわかって、顔には出さずに心で嘆く。

 

「尊敬するドラマーはいるけど、アイドルとかでは特にいないです、ね」
「うぉっ。のーやんらしい答えっ」

 

 俺らしい答え、か。
 もし俺が……って言ったら、ハルさんはなんて答えるんだろうな。
 前言ってたように「やめておいた方がいい」って言われるんだろうか。
 彼らの曲の順番になって「がんばれー!」ってテレビに拳を向けるハルさん。
 そんな姿を見て、画面の中のアイドルに少しだけ嫉妬した。


 

end