■キミと栄養

 


 一日に何度も思い出す。
 この腕で包んだ時の細く頼りない小さな身体を。
 そして。
「一人の方が楽でいいんだ」と言った、ハルさんの言葉を。


 

 
「……うん、うん、俺も!大好き!」

 

 俺の目の前にいる男……ナツは俺の悩みがアホらしく思える程に「好きだ」とか「会いたい」と第三者の俺が恥ずかしくなるような言葉を平然と口にする。
 しかもコイツはハルさんの弟だ。兄弟でどうしてこうも違うんだろうか?

 

「あれ?リーダーどしたの?そんな怖い顔してさぁ。今回の曲ダメだった?」

 

 ハルさんそっくりの顔が、能天気な表情で首を傾げる。こういう所は似てる。

 

「いや、いいんじゃないか。けど珍しいな、バラードなんて」
「だーってさぁ、玲音の詞見たらラブバラード調しか浮かばなかったんだもん」
「ナツも珍しいが、玲音も珍しいな。こんなに感情を表に出すような歌詞書くなんて、らしくないというか……何かあったのか?」
「さ、さぁね〜?そういう気分なんじゃない?」

 

 俺は知ってます、と顔に書いてあるくらいわかりやすく、目線も声も泳いでる。
 知ってる事を勝手にしゃべらない事を褒めるべきか。

 

「よし、新曲はコレでいこう。青井にも渡しておいてくれ」
「りょーかいっ!」


 


「ねぇ、リーダー」
「なんだ?」
「うちのハル兄ぃに栄養与えてやってくんない?」

 

 ハルさんの名前が出て来た事にどきりとしたが、それよりも「栄養」という単語に引っかかった。

 

「ハルさん?栄養?どういう事だ?」
「ここ最近さぁハル兄ぃの帰りが遅いんだけど、リーダーんちに寄ってる訳じゃないよね?」
「あぁ。この頃は来てないな」
「でしょ?でね、俺も朝ちょこっと顔を合わせるくらいなんだけど、また痩せたっぽいんだよね。フユに聞いても、ご飯は外で食べてるって言ってるけど食べてなさそうだよね、とか言うしさぁ。流石に心配なんだよね〜」
「あれ以上痩せたらマズイだろ」
「うん。俺が言ってもスルーされるだろうし、リーダーから言ってもらえればちゃんと食べるかなって」
「なんで俺が?」
「だってハル兄ぃ、リーダーに懐いてるもん」

 


 さらりと言われた言葉が、ずしりと重く感じた。
 にっこりと笑ったナツの表情に、ハルさんの表情が重なる。
 ……本当に、世話のかかる人だ。

 


 
 何度も思い出すよりも先に、一度新しいハルさんを見ればよかった。  
 なんだかんだ考えるよりも先に、栄養を与える方が先だった。

 


 ハルさんにも、俺にも。

 

 

end