だっるー…。
空港の窓際の席に座って、ぼんやりと飛行機が離陸したり着陸するのを見てた。
一時間半の自由時間の後は、飛行機に乗って帰るだけの修学旅行。
土産は最低限買ったし、体がダルイのもあって残りの一時間は飛行機を見るだけで終わらせる事に決めた。
終わりよければ全てよしって言うけど、今回はマジそんな感じ。
まさか、青井と……なぁ。
「これでいい?」
すっと目の前に、アイスの入ったカップが差し出された。
「お、おぉ。さんきゅ」
青井は青井で、幹事の仕事以外にも俺の世話なんてしてくれてる。
照れ臭いし、昨夜の事を思い出すしでくすぐったい。
「俺は大丈夫だから、土産とか見て来ていいぜ」
「平気。昨夜のうちに宅急便で送ったし、荷物増やしたくないから」
「さすが。ソツがないね」
「まあね」
青井は俺の隣に座って、缶コーヒーを開けた。
俺は買って来てもらったアイスを食べて、その美味さに酔いしれる。
さすが、北海道。何を食べてもうまい…!
「おいしそうに食べるね」
「おう、超うまっ!青井も自分の分買ってくりゃよかったのに」
「俺は大丈夫。蒼に一口もらうから」
そう言うと青井は、俺の手首を持ってアイスの乗ったスプーンを自分の口に持っていく。
トウモロコシの時と同じやり方。
やっぱりコイツは俺をドキドキさせるのがうまいんじゃないかって思うんだ。
また心臓が早く動き出しちまったじゃねぇか。
「思ったより甘くなくて食べやすいな」
「だっ、だろ!?」
「脈拍早いね」
……誰のせいだよ。
口には出せなくて睨んでみせると、青井はふっと優しく笑う。
ちくしょー…、そんな風に笑われたら余計脈拍早くなっちまうだろうが。
昨夜、散々抱き合った後。
「忘れられない旅行になった」って、同じような笑顔で言われたから。
俺はなぜか泣きそうになったのを誤魔化すように毛布に潜り込んだ。
その上から優しく抱き締められて、またそれに泣きそうになって、アイツの温もりに安心して眠ったんだ。
って、思い出させるなよ…!!!
自由になった手で、ハイペースでアイスを食べる。
口から頭までクールダウンしてぇ。
「青井くーん」
…………、あ。
アイスじゃなくても、クールダウン出来た。
ちょっと離れた場所から青井を呼ぶ女子達。名前までは覚えてねーけど、自由行動で一緒だった奴らだ。
「なに?」
「話があるんだぁ。ちょっと来てくれる?昨夜部屋に行ったんだけど、寝てたみたいだったから…」
あぁ、昨夜のチャイム攻撃もこいつらか。
別に俺は一人でも平気だぜ、って視線を青井に送ってみた、が。
青井は冷ややかな表情で、女子達の方を見た。
「ここじゃダメ?」
「え〜〜、ダメ」
「そう。じゃ、その話は俺には必要ないよ」
青井は表情だけじゃなく、すげー冷たい態度で女子達の誘いを断っていた。
ここ何日かの青井とは全く違う、元カノと別れる時に見せてた表情だ。
隣にいる俺すらビビリそうになったんだから、直接言われた本人達は相当ビビったに違いない。
現に女子達はそれ以上何も言えなくなったみたいで、逃げるようにして去って行った。
あんなにイライラさせられた相手だったっていうのに、うっかり同情しそうになったくらい。
「おい、いいのかよ…」
「何が?」
「いや、だって、旅行中ずっと一緒にいたしさ」
「グループ行動だったから仕方なくね」
「仕方なくって、結構楽しんでそうだったじゃんか」
「楽しかったよ」
「……ほら、やっぱり」
俺が少しムッとしたら、青井の表情がすっと変わった。
優しい表情、に。
けれど。
「蒼が嫉妬してくれる姿が見れて」
「…………、え?」
「俺が気付いてないと思った?」
優しそうな笑みが、意地悪そうな微笑に変わった瞬間、を見た。
「あ、青井って、そんなヤツだったっけ?」
「そういうヤツだったみたいだね。自分でも知らなかったよ」
「はぁ?!」
「言っただろ?俺はでくの坊だったって。その俺が変わったんだ。自分の感情がどう動くかとかすらわからなくなっててもおかしくはないだろ?」
「う、うん?」
「だから蒼がもし他のヤツに色目なんて使ったら、……俺はどんな行動をするんだろうね?」
「…………」
「アイスついてるよ」
ちょんと唇の横を指で撫ぜられた。
アイスがついた指を、青井がぺろりと舐める。
そして、また笑う。
ちょっと待て。待ってくれ。
どっから突っ込んでいいかわかんねぇぇぇ!!!
幸せな状況の中で、一抹の不安を覚えたのは確かだ。
End