入学してきた当初に短髪だった孝行の髪は、今では肩に着くくらいの長さになってしまった。
俺は、それがすっげーーーー気に入らないんだ!!!
「なぁ、髪切れば?」
「切りに行くのが面倒だし、冬だからいいでしょ」
そう言って奴は、髪をかき上げる。
それが…それが…すっげーーーかっこいいんだってば!!!
これだけ無造作に伸ばしてりゃむっさくなるはずなのに、孝行がやるとイケメン風になるんだ。
ただでさえ顔がいいから余計…。
今までは黒ぶちのめがねでガードされてたからそんなに目立たなかったけど、またグンと伸びた身長と一段と男らしくなってしまった面構え…それに加えてその髪型で目ざとい女子どもが騒ぎつつあるんだ!!
そうでなくても孝行は神野といつも一緒だから、ただでさえ注目を浴びるというのにっっっ!!
今じゃ二人の写真が高値で取引されてるらしく、一年の秋本どもが部活にカメラ持ってきてやがるし!!!
あーーー気にいらねぇ!!!
「どうしたの、ユウ?不機嫌そうだけど」
「べっつにぃ〜」
「眉間に皺が寄りまくりなんですけど」
孝行の大きな手が、俺の髪に触れる。
それだけでとても切なくなってしまって、孝行に抱きついた。
孝行はちょっと間を置いてから抱き締め返してくれて、そのまま髪を撫ぜてくれた。
独り占めしたい。
独り占めしたい。
独り占めしたい。
誰も孝行を見ないで。
誰も孝行に触れないで。
誰も孝行を好きにならないで。
俺だけを見て。
俺だけのものでいて。
俺だけを愛して。
「なにを心配してるの?」
「…孝行、俺のこと好き?」
「好きだよ」
孝行が、ぎゅっとしてくれる。
この声も、この温もりも、この匂いも、好きでたまらない。
あぁ…俺は独占欲ばかりが強くて、心が狭い。
でも、不安でたまらないんだ。
ただでさえ男同士だから、ずっと一緒にいられるっていう保証はなくて。
いつか孝行が他の人の物になってしまうかと思うと…切なくて、切なくて…やりきれなくて。
この腕に触れることが出来なくなったら、俺は…生きていけるんだろうか。
俺には、孝行しかいないのに……
ジャキ ジャキン
はっ…。
はさみで何かを切る音がして、俺は顔を上げた。
目の前には信じられない光景…
「なにやってんだよーーーーーーーーっっ!?」
「なにって、髪切った」
孝行の手には、髪の束。
後ろ髪は短くなって、長さはバラバラで…
慌ててハサミを取り上げた。
「ばっかじゃねーーーーの!?」
孝行は、にっこりと笑った。
「ユウに嫌われたくはないからね」
ドクン…
あぁ…やっぱり孝行にはかなわない。
我儘で心の狭い俺をすっぽりと包み込んでくれる。
「嫌いに…なれるわけねーじゃん…」
好きで好きでたまらないのに。
今、また好きになってしまった。
もうキリがないよ…。
「よかった。…おいで、ユウ」
導かれるままに、大好きな場所へ。
あぁ…この場所は、最高だ。
俺だけの特権。
俺だけの場所…。
……後日談。
バラバラの長さの後ろ髪を隠すために、長いサイドの髪を後ろに流すようにして登校して来た奴は…
前よりも大人っぽく、前よりも目立ってしまってた。
あーーーーーもうっっ!!!
前よりもかっこいいーーーーじゃんっっっ!!!
end