目の前で勉強している青井と、求人雑誌を読みふける俺。
賑わっているファーストフード店で真逆な事をしている俺達。
高三になってクラスも進路も別れたけど、前と変わらずに一緒にいる俺達。
付き合って、1年以上経った。
二冊目の求人雑誌を読み終わって、自然と溜息が何度も零れる。
今までずっと好きな場所でやってたせいか、ついこだわっちまってなかなか定まらない。
そんな俺に気付いたのか、青井も参考書を閉じた。
「いいトコなかった?」
「う〜〜ん……」
「1年我慢して働けば、またライブハウスで雇ってもらえるんだろ?少しは妥協しろ」
「そうなんだけどさぁ」
ライブだけじゃなくバンドマンが練習出来るようにと、スタジオ完備のライブハウスに拡張工事をする事になった。
その間は叔父さんは知り合いのライブハウスを手伝いながら新装開店の準備をする予定だ。
俺はといえば進学なんて考えは全くなくて、卒業しちまえば進路未定の無職になっちまう。
もちろん家からの仕送りもストップ。
進学しないって言った時には大騒ぎだったし、家にも戻れないっていうか戻りたくない。
その間まで叔父さんに面倒見てもらう訳にもいかないしなぁ……
「こうなったら朝晩関係なく、なんでもいいからバイトしてみようかな」
「それは困る」
「なんで?」
「会えなくなるから」
「……あ〜」
「夜の仕事は反対だからな」
「う、うん……」
回りが騒がしいから聞こえないだろうけど、外で言う事じゃないよな。
青井は顔色ひとつ変えずにさらって言うけどさ、俺は赤くなるのを静めるのが大変なんだっつーの。
氷が溶けて薄くなった炭酸を飲んで一呼吸置く。
「青井は志望校は決まったのか?」
「あぁ。県内の国立に絞るよ」
「は〜…成績がいいヤツは言う事が違うね」
「やりたい事はまだ見付からないけど、大学で取れる資格は出来るだけ取ろうと思ってる」
「お、前向き発言」
「将来、蒼に苦労はかけたくないからな」
せっかく顔の火照りが取れかけてたのに、また最初からやり直し。
前よりもストレートになった愛情表現が嬉しく思いつつも、まだそれを受け止めきれる度量はない。
青井がここまで考えててくれてるんだから、俺も何か見付けないとなぁ…
「求人雑誌は見終わったのか?」
「うん」
「じゃ、これも見ておいて」
「ん?」
青井が鞄から取り出したのは、無料で貰える住宅情報誌数冊。
いくつか付箋を付いてる所を見ると、青井はすでに見終わってるんだろう。
「大学入ったら一人暮らしするのか?」
「一人じゃないよ、二人」
「…………、は?」
「俺がいいと思うトコはチェックしておいたから、蒼もいいと思ったトコにチェックしておいて」
それって、さぁ……。
青井の未来に、当然のように組み込まれてる俺。
無表情でさらっと言われても、心にずしっとくる。
同時に青井一人に頼りたくないっていう心も芽生える。
「負けらんねー…」
「何が?」
「俺だって働きながら、何かしら技を身につけてやる」
「だったら、料理がいい」
「料理?」
「俺は料理全く出来ないから、蒼が料理が出来るようになってくれると助かる」
「なるほど……、そっか」
住宅情報誌を置いて、もう一度求人雑誌を手に取った。
好きな場所に戻れるまでの間、好きなヤツが喜ぶようなスキルを身につけるのもアリかもしれない。
参考書にペンを走らせる青井の前で、俺は調理系のページを隅から隅まで概要を読んでいく。
もう溜息は出なかった。
初めて「卒業」が「未来」が楽しみだと思った。