■たいせつなひと。

 



 日付変更線を越えそうな時間。
 今にも眠りそうな彼に添い寝して、今日行った現場の様子を話す。
 今日の現場は昔二人でよく過ごした場所だったから、ついテンションが上がっていつもより饒舌になってしまう。
 彼は眠い目をショボショボさせながらも、うんうんと相槌を打ちながら俺の話を聞いてくれた。
 それがどうしようもなく嬉しくて、もっと嬉しくなりたくて、二人しかいないのに内緒話みたいに彼の耳元で囁く。

 


「……あのね。初めてキスした場所も通ったよ」
「あの公園?」
「うん。覚えてたんだ?」
「覚えてるよ。忘れっこないじゃん」

 


 ふふっ、って優しく彼が笑う。
 眠気もあるせいか、いつも以上にふんわりとして可愛い。
 あの日まだ幼い俺逹は、思春期特有の話の流れで興味本位でキスをした。
 大人になる実験のひとつだったのに妙にドキドキして、誤魔化すように笑い合った。
 それが今は……

 


「あのね」
「うん?」
「キス、したい」
「どうしたんだよ、いきなり」
「ダメなの?」
「……いいよ」

 


 目を瞑れば長い睫毛が一際際立つ。
 あぁ、綺麗だな…と思いながら唇を重ね、細い身体を抱き締める。
 あの時とは気持ちも違うキスに胸が熱くなる。
 大人になる実験の結果は、彼が好きだという事を導いてくれた。
 大人になって半ば破れかぶれで告白して、戸惑いながらも受け止めてくれた彼。
 年を重ねたなりのキスが、こんなにも愛しい。
 そっと唇を離すと、彼が俺の髪を優しく撫ぜた。

 


「今夜はちゃんと寝れそう?」
「うん。お前がいるから平気」
「よかった。じゃ、いっぱい寝なよ。また明日から忙しいんだろ?」
「うん、そうする」
「おやすみ」
「おやすみ」

 


 彼の胸に顔を寄せると、彼の腕が俺を包んでくれる。
 ずっとそうしてきてくれた自然な仕草に口元が緩む。
 そのうち規則正しい寝息が聞こえてきて、俺もつられるように眠気がやってきた。
 一人の時は不安になって眠れないのに。
 彼のぬくもりは、俺から不安を取り除いてくれる。

 


 無くてはならない場所。
 いなくてはならない人。
 ずっと一緒にいたい人。

 


 大切な人のぬくもりの中、心地いい眠りに身を任せた。

 

 

end