■つまり、結局そういうこと

 



 ……重い。

 


 身体がホールドされてて、寝返りが打てなくて重い。
 うっすら目を開けてみれば、熟睡してるマルの顔が間近にあった。
 部屋も天井もシーツの肌触りも馴染みがない。
 あ、そっか。そうだった。
 昨夜はマルの家に泊まったんだっけ。

 

 ……また、こういう関係になったんだっけ。

 

 俺をしっかりホールドしてる腕をどかそうとすれば、ん〜と不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。

 


「逃げないってば」

 


 逃げない、そう、逃げない。
 別れを切り出した時の俺は逃げてた。
 マルが普通の幸せを掴めるように、って思ったから。
 でも、逃げ切れなかった。
 またこうしてマルの腕の中にいる。

 


「もう逃げない、よ」

 


 逃げられない、ってわかったから。
 マルからも、自分の気持ちからも。

 


「本当に?」

 


 声のする方向を向けば、マルがじっと俺を見てた。

 


「ごめん、起こしちゃった?」
「テツが逃げちゃうかと思った」
「これじゃ逃げらんないよぉ」
「逃がさないもん」

 


 ふふっ、って耳元で笑うから、息がかかってくすぐったい。

 


「テツは、俺のモノ。わかった?」
「はーい」
「ちょ、なにそれ」
「え〜?だめぇ?」
「可愛いすぎんだけど」

 


 首筋にいくつもいくつもキスされて、変な声が出そうになるのを堪える。
 なんだよ、もうっ。
 こんなに甘えてくるヤツだったっけ?

 


「我慢しなくていいのに」
「……っ」
「ねぇ、まだ朝まで時間あるよ」

 


 そう言うや否や、マルの手が俺の身体を撫ぜ回してくる。
 首筋だけでなく、鎖骨や胸元にまで口付けながら。

 


「な、にやってんだ、よっ…」
「休みだからいいじゃん」
「午後から用事が、あるってば」
「だから?」
「だからって……えぇ?」
「もうスイッチ入っちゃったからだめだよ。今までの分、取り戻そ?」
「むりっ…!もうおじさんだからっ」
「おじさんがあんなに色っぽい?ガキん時みたいにがっついちゃったもん、俺。テツの色気ヤバいって。女よりセクシーだもん」
「ばっ…ばっかじゃねーのっ?!」
「うん、バカだよ。テツバカだもん。大好きだよ、テツ」

 


 うっとりとした口調で囁かれたら、何も言い返せなくなる。
 嬉しいっていうのが伝わってきたし。

 


「テツ、さいこー…」

 


 散々抱かれて薄れてく意識の中で、マルが幸せそうに笑うのが見えて。
 ま、いっか。って思ってしまった。

 


 結局は好き、なんだから。

 

 

end