ポッキーを見ると思い出す。
甘い、苦い、あの日のこと。
店の定休日。手伝いも休み。
受験勉強もする気になれなくて、コンビニで菓子とコーヒー買って神社の境内でぼけっとしてた。
ポッキーを咥えて煙草の真似なんて、ガキの頃から変わらない遊びしてみたりして時間潰し。
空をぼーっと眺めながら、チョコの甘さとコーヒーの苦さを交互に味わってた。
「玲音、何やってんだよ」
ぱくっ、と新しい一本を咥えたら、空から声が聞こえた。
もう冬も近いっていうのに、汗がいくつも伝ってる額に、上気した頬が目に入る。
「見てわかんねーの?」
「何もやってないな」
「そういうこと」
首にかけてたタオルで汗を拭いながら、当たり前のように隣に座る悟史。
学ランを通してでも伝わってくる隣からの熱気に、胸の動きが早まる。
こんな条件反射を身につけてしまった自分がウゼェ。
「勉強はどうしたんだよ」
「気が乗らない」
「乗れよ!同じトコ行けなくなるだろーが」
「悟史よりは成績いいし」
「……っっ、俺はスポーツ推薦取ったし」
正直、同じ高校に行こうかどうか悩んでた。
どうせ離れるなら早いうちに離れておこうかと思ったのに、第一志望は悟史と同じ高校になっちまった。
家から一番近い高校が陸上で有名だったなんて知らなかったって言い訳も付け加えておく。
苦笑いを噛み殺しつつ、ぱくっと一本。
「俺にも一本くれ」
「ランニングの途中だろ?」
そう言いながらもポッキーの箱を覗いてみれば、すでに中身は空っぽだった。
「残念。これがラスト一本」
「くっそぉ」
悔しがる悟史に、ざまみろって思いながら空の箱を見せる俺。
ますます悔しがる姿を見て、ようやく自然に笑えた。
少しは悔しがれ。
俺ばっかお前の事で悩んでるなんてアホらしい。
「もーらい」
「…………!?」
ぱきっ、と折れたポッキー。
ぱちん、と目に焼きついたお前の顔。
ぱぁん、と一段と膨らんだお前への想い。
「糖分補給完了。じゃ、また明日な」
「さ、悟史!!なにすんだよ!」
「勉強しろよなっ」
半分に折れたポッキーを攫って、悟史は走り出して行った。
残りの半分のポッキーを咥えた俺は、しばらくその場から動けずにただ小さくなる背中を見てた。
「また離れられなくする気かよ……」
甘い、苦い、この恋。
伝えられないままの、何度目かの冬が来る。