■ゼンリョクナキモチ

 


 見覚えのある小さな小瓶を見つけて足を止める。
 香水売り場に置いてある青い小瓶は、みやびさんがいつもつけてる香水だ。
 テスターの匂いを嗅いでみるけど、同じようで違う感じがした。
「同じ瓶だよなぁ…」
 もう一度嗅いでみても、ラベルを見て同じモノだと確認しても、何か違う。どこか違う。
 おかしいなぁと思いながら、青い小瓶を元に戻した。 

 


 

 《 ゼンリョクナキモチ 》 

 


 香水を見てたらどうしても会いたくなって、短い時間でもいいからって我儘言って出勤前のみやびさんちに押しかけた。
 メイクをしてるみやびさんの背中にぺっとりと張り付く俺。

 


「何かあったの?」
「ううん、なんもない」

 


 ……うん、やっぱ違う。
 テスターの匂いとは違う、みやびさんの香り。
 胸ん中を柔らかく掴まれる様な香りに、ほっとする。
 それにしても、俺ってこんなにウザイキャラだったっけ?
 出勤前の忙しい時間帯に押しかけるなんて、迷惑に違いないのに頭ではわかってても行動が止められなかった。
 ウザイな、コイツって思われてたらどうしよう。
 ちょこっと不安になって、みやびさんの背中にぐりぐりと頭を押し付ける。

 

  
「ナツ…」

 


 名前を呼ばれて顔を上げると、手招きされて前へと誘導される。
 すっかり仕事用の姿に変身したみやびさんは見惚れちゃう程綺麗だ。
 でも俺は、そのまんまのみやびさんの方がやっぱ好きだなぁ。
 しばらく見詰め合った後、ちゅって頬にキスされる。

 

「なんで口じゃないの?」
「あんまりアタシを困らせないの」
「やっぱ俺ウザイ?」
「違うわよ。……口にしたら、仕事に行けなくなっちゃうってコト」

 

 俺はそれでも構わないんだけどな…。
 言いたいけど言わない。これ以上、我儘は言えない。
 ぐっと飲み込んで、渋々みやびさんから離れる。


    


「休み…、決まったら教えてね」
「当たり前じゃない」
「みやびさん…」
「なぁに?ナツ」

 


 −−−この香りを俺に独り占めさせて。

 


 なんでもないって首を横に振る俺を、みやびさんは何も言わずにそっと抱き締めてくれた。
 ふわりと香るみやびさんの香りを感じて、少しだけ目が潤んでくる。
 自分をコントロールするのが難しいなんて知らなかった。
 知らなかったよ、みやびさん。

 


 俺、この人に全力で恋してる。


end

 

 LOTUS BLOOM」様にて、みやなつ&なつみやのお話が読めます