■Marking

 


 上に覆い被さるように青井がいて、キスしながら制服を脱がされて。
 この流れに慣れて来てるのに、何か違うなぁってぼんやりと思う。
 ひんやりとした空気が素肌を滑って、気付いた。
 今日は青井の部屋だから、か。
 部屋から、ベッドから、本人以外のあちこちからも青井の匂いがしてきて変な感じ。

 


 

「いてっ」
 首筋に走る微かな痛み。
「心がどっかいってるだろ」
 青井を見れば、眼鏡を外した瞳がちょっと不機嫌そう。

 

 

「だって、ココですんの初めてだからさ」
「嫌?」
「嫌とかそういうんじゃなくて…、なんつーか……ココで青井が毎日生活してんだなーって考えてた」

 


 不機嫌そうだった瞳が和らいで、俺の頬にくすぐったいようなキスをする。

 


「この部屋には足りないモノがあるんだ」
「足りないモノ?そういえば、テレビとかないな」
「そういうモノじゃなくて」
「違うの?じゃ、何が足りないんだよ」

 

 うん、って前置きするように青井が俺の前髪を撫ぜる。
 その仕草が気持ちよくて思わず目を閉じると、唇が重なって舌が絡みついてくる。
 やばい、キスに溺れて意識が飛びそうになる。
 答えを聞き逃すもんかと青井の胸を軽く叩けば、離した唇から答えが降ってきた。

 

「蒼が足りない」
「え、お、俺…!?」
「あぁ。この部屋で俺が一人でいる時も蒼の事を感じられるように、今からココに蒼の痕いっぱい残しておいて」

 

 ……それ、わかる。
 俺の部屋は、俺の布団は、青井の存在が残ってるから。
 一人でいる時も、一人じゃないような気分になる。
 その気分は、俺をほっとさせて妙に落ち着くんだ。
 いつも傍にアイツがいる、って。

 

 

「いいぜ。いっぱい残せるようなコトしろよ」
「いいね、その挑戦に乗った。泣き言は聞かないからな」
「泣かないっつーの」

 

 青井の手によって溶かされた俺は、青井のベッドに沁み込んでいく。
 一人の時間に、ちらっとでも俺の存在を感じてくれればいい。
 傍に俺という人間がいる事を思い出してくれればいい。
 とどめを刺すように、枕に爪を立てた。  


end