修学旅行で初めて北海道に来た。
お前は北海道は二度目だよって親に言われた。
まだ物心つくかつかないかくらいの年に悟史んちと一緒に来たらしく、写真は残ってるけど記憶には残ってない。
「あのお店見てもいい?」
「あぁ。ココで待ってる」
「え〜!?一緒に入らないのぉ?」
「店ん中、混んでっからさ」
「も〜、ちゃんと待っててよ」
「あぁ」
先週告られて出来たばっかの彼女と過ごす自由時間。
ナツとナツの彼女と4人で行動してたのに、移動してる途中ではぐれちまった。
女の買い物に付き合うのは苦手だし、店の前の壁に寄りかかって待つのが賢明。
携帯ゲームし始めたら、耳に馴染み過ぎてる声がした。
「おーい、玲音。迷子かぁ?」
「迷子じゃねーよ。……って、悟史。お前さぁ、なんで土産モン食ってんの?」
「試食したら超うまくってさぁ。家用には宅急便で送って、コレは俺のオヤツ用。食う?」
差し出された菓子をひとつ貰って口に入れるが、すぐに口が拒否反応起こしてムセた。
「あまっ!!よくこんな甘いのいくつも食えるなっ」
「そんなに甘いかぁ?」
「悟史の舌、ヘン」
持っていたペットボトルの炭酸水で、甘ったるい味を流す。
甘党だとは知ってたけど、ここまでスィーツ男子だったとは。
「おまたせ〜。あれ?永塚だ」
「おぅ」
「いいとこにいるね〜。一枚写真撮ってくれない?この店のマスコットの前で写真撮るとイイコトあるんだって」
「へぇ。そんなのがあるんだ。いいよ、ココ押せばいいのか?」
「そうそう、お願いね!玲音君、撮ろっ!」
「はぁ?俺も?」
「だって、まだ2人で写真撮ってないじゃない」
どうでもいい……。
そんな事は言えずに腕を引っ張られるままに、マスコットの前に連れて行かれる。
よりによって悟史に写真撮らせるとかふざけんなよ。
眉間に皺が寄ってたのもわかってたけど、不機嫌さを直す前にシャッター音が鳴る。
「ありがとー、永塚ぁ」
「なぁ、俺と玲音も撮ってくんね?」
「は!?なんで悟史と俺が!?」
「入学式以来、一緒に写真撮ってねぇじゃん。昔はよく撮ったのにさ」
「そ、それは親同士が」
「そっかぁ。玲音君と永塚って幼馴染なんだっけ?」
「そう。0歳からの付き合い」
「すごいね〜、それ!今度写真見せてよ」
「クラスメイトより彼氏に頼めよ。このデジカメでよろしく」
「オッケー。じゃ、撮るよ」
ズシン、と全身に重みを感じた。
悟史が俺の肩を抱く。
昔からやってきたポーズなのに、今はまるで重みが違う。
想う年数が増える度に重くなっていく。
「サンキュ。邪魔したな」
「いいえ。またバスでね〜!」
肩から重みが消えても、全身にまだ重みが残ってる。
動揺しすぎてシャッター音すら聞こえなかった。
俺はどんな顔してお前の隣にいただろう?
デジカメの画像を確かめる間もなく、悟史の背中は小さくなっていく。
まだ口に甘さが残る中、重みや想いを流す為に炭酸水を飲んだ。
例え何リットルも飲み干しても、流す事は出来ない事を知ってるのに。
「イイコトあるといいね〜」
彼女の言葉が、耳を掠めた。
彼女にも誰にも聞けず、北海道の青い空に無言で問いかける。
−−−俺にとっての《イイコト》ってなに?