不意打ち、だった。
気が付いた時には、異常な眼圧に魅了されてた。
人混みの中でも、すぐに僕を見てるってわかってしまった。
そんな強い瞳に見つめられたら、頭から離れなくなるじゃないか。
一瞬で目を逸らしたのに、目が合った瞬間だけ時間がピタッと止まったように感じた。
流石、学校一の人気者と呼ばれる男だけある。
まんまと僕もその一瞬で、その男の存在が脳裏に住み着いてしまった。
学祭打ち上げ後の生徒会室。
絶えず入る情報やハプニングに頭をフル回転させてたせいか頭がふわふわしている。
それに加えて何度も与えられるキスに、身体までもがふわふわしてくる。
なんでこの男が生徒会室にいるのか、なんで2人きりなのか、なんでこんな展開になったのか、もう覚えてない。
僕は生徒会長で、彼は楽祭の実行委員というだけなのに。
思い出そうとする暇もない。
抵抗しようとする気力もない。
口だけじゃなくて耳や首にもキスされて、自分の力だけでは立っていられなくて腰に回された力強い腕に支えられてる。
「……、ん、」
「大丈夫か?生徒会長」
「……わ!」
耳元で囁かれてゆっくりと目を開ければ、脳裏に住み着いた男……中瀬のドアップ。
視線が合えば、一気に顔が熱くなる。
シャツのボタンがいくつか外されたのにも気付いて、更に熱くなってきて汗までかきそうになる。
そんな僕を見て中瀬がにやりと笑う。
「なに驚いてんだよ」
「だって、近かったからさ」
「この状況で近くないわけないだろ」
「……、んっ」
今度はいきなり深いキス。
息つく間もなくて、唇が離された時にはへたりと中瀬に凭れかかってしまった。
ふわりと優しく髪を撫ぜられるのが気持ちいい。
ずれた眼鏡を直す力もなく、されるがままになる。
「学祭、お疲れさん」
「ど、どうも。中瀬こそ、お疲れ様」
「お前、可愛いな」
「か、可愛くないよ、男だよ?」
「可愛いモンに性別は関係ねぇって。ほら、目ぇ閉じろよ」
そう言いながら中瀬の手が、へたっていた僕の顎を上げようとする。
まだキスするのか?!とも聞けずに、違う言葉で中瀬の動きを止めてみる。
「ねぇ中瀬、誰か来るかもよ。見回りの先生とか…」
「もうちょっとだけ黙ってろ」
強い瞳に見つめられると、何も言えなくなる。
言葉は強いけど、優しく微笑まれながらキスされれば、どうでもよくなって自然に目を閉じてしまう。
はだけたシャツから出た肌にも口付けられて、反射的に中瀬のシャツを掴む。
意識が飛ばないように薄目を開けると、ドラマで見たラブシーンのような中瀬の表情にドキッとして見惚れてしまう。
やっぱり男から見ても、カッコいいよなぁ中瀬は。
スタイルもいいし、顔も整ってて、見た目は話かけづらいオーラを纏ってるのに、話してみれば意外と気さくで面倒見もいい。
今回の学祭で初めて接したけど、他の役員達が気付かない細かい事をさり気なくサポートしてくれたり、面倒ごともスマートに解決してくれてとても助かった。
女生徒が騒いでるのも無理はないと思う。
……でも。
なんでキスされてるんだろうか、僕は?
なんで僕にキスしてるんだろうか、中瀬は?
男同士なのに。
学祭で接点を持っただけなのに。
キスをするような関係じゃない筈なのに。
……そもそも僕はなんで嫌じゃないんだ?
でも、ここから逃げられない事だけはなぜか本能でわかってる。
彼に魅了されてしまった僕は、この時間に従う事しか出来ない。
例え、今日だけの行為であっても。