■ストーブ

 



 小さなストーブがひとつある部屋。
 まったりとした2人の時間。
 俺は受験する大学の資料を読み、俺の膝を枕にして漫画を読んでる蒼。
 寒さを理由に珍しく蒼の方から甘えて来てくれ、寒いのも悪くないと思う俺。
 環境が変わりつつある中で、貴重な2人の時間だ。

 


 資料を読み終えて眼鏡を外すと、蒼が漫画から俺へと目線を移す。
 そして、妙な事を言い出した。

 


「なぁ、青井」
「なに?」
「女を抱くのと、男を抱くのって同じくらい気持ちいいの?」
「…………は?」

 


 蒼の目は冗談を言ってる目じゃない。
 まさか俺以外に気になる男が出来たとか?しかもリードしたくなるような?


 


「浮気は許さないよ」
「ふぇ?」
「誰か他のヤツを狙ってるんじゃないだろうね?」
「はぁ?」
「まさかライブハウスに出入りしてるヤツ?」
「なんで?そんな訳ないじゃん」
「そうじゃなかったら、なんでそんな事を聞くの?男を抱いてみたくなったとしか思えないよ」

 


 自分は蒼と付き合う前は散々遊んできたのを棚に上げ、眼鏡を掛け直し蒼を睨む。
 きょとんとした顔をしても無駄。浮気なんて冗談じゃない。
 暫く沈黙が続いた後、蒼が俺の目を見て言った。


  

「俺が男を抱くとしたら、青井しかいないよ?」
「…………え」
「浮気なんか面倒臭いからしないし」

 


 浮気しない、っていうのは安心したけど……その前に爆弾発言したよ、な。
 蒼は俺を抱いてみたいのか?

 


「あはははは、青井ってば超ビックリした顔してる〜」

 


 蒼が漫画を抱えるようにして笑い出した。
 未だに頭の中が整理出来てない俺は、その笑う顔を見つめるしかない。
 それすらおかしいのか、蒼はまだ笑ってる。
 そのうち「あ〜おなかいたーい」って言いながら身を起こした。

 


「笑いすぎて喉渇いちゃった。飲み物取ってくるわ」
「あぁ……」
「いつもイジメられてるお返し」
「え」
「あはははは、おもしれ〜」

 


 笑い声と共に部屋を出て行く蒼。
 その姿は可愛くも見えるけど、実は小悪魔なんじゃないかと思わせる。
 イジメるのも何も、それは蒼が煽るような表情を見せるから止まらなくなるだけで……
 しかもそんな事言われたら、誘われてるのかと思ってしまうだろ? 

 


「そういうのわかってやってるのかな」

 


 せっかく頭に入れた大学のデータは、蒼の爆弾で破壊された。
 ストーブのようにじわじわ上がる熱はどうすればいい?


 

end