■奏鳴曲〜君だけに奏でる恋歌〜 第13話

 

 いつもならとっくに寝てる時間。
 いつもなら1人で寝てる布団に、アイツと2人。
 静かな部屋で聞こえてるのは、2人分の吐息と鼓動。
 初めての体験は、自分の意識を保つのに必死だった。
 意識を飛ばしたら勿体ない、とまで思ってた。

 

 身体全部が、訳わかんねぇ感覚に襲われる。
 皮膚がやけに敏感になって、触れられるとチリチリする。
 薄らと目を開ければ、目尻に溜まってた涙が伝うのがわかった。
 泣きたいわけじゃねぇのに、悲しいわけでもねぇのに、勝手に涙が溢れてくる。
「…、蒼」
 さっきからだとは思えない、前から呼んでいたかのような自然さ。
「う…ん?」
 呼ばれる事に嬉しさはあっても、それに応える為の言葉が続かない。
 あの重低音を奏でる指が、探るように俺の中に出たり入ったりしてるから。
 痛みと変な感覚のダブルパンチで、おかしくなりそうだから。
「痛くない?」
「いてぇに決まって…ん、じゃん…」
「聞き方間違った。まだ痛いだけ?」
「まだ…って、んんっ…」
 痛い以外になんかあるんかよ!って言いたかったのに、唇を塞がれて阻止されちまう。
 痛い以外の感覚がきてんの、バレてんのかも。
 こんなトコ触られて嫌じゃないとか、気持ち悪くないとかおかしいっていうのに。

 


 それにしても、やばい。
 青井のキスはこういう時は更に気持ちよすぎる。
 腰の辺りがムズムズとしてきて、落ち着かなくなって困るんだって。
 困ると思いながらも、唇を離す事もなんも出来ない。
 手持ちぶさたな手が枕の端を掴むと、それに気付いたのか唇がすっと離れる。
「枕より、俺を抱き締めてくれる?」
「え、えっ?!」
「俺の首に腕回して」
「こう…か?」
 言われるままに、青井の首に腕を回す。
 ……熱い。
 青井の身体も俺と同じように熱くなってる。同じだ。
「素直な蒼もいいね。…可愛い」
「だっ、誰が可愛いって?!」
「蒼」
「眼鏡かけてねーから、ぼやけてんだよ!」
「こんなに近ければ、眼鏡外してても見えるよ」
「……、っ」
 間近で見ても青井は綺麗な顔してて、でもクールな顔が欲情してるのがわかって、あぁもうなんて表現したらいいかわかんねーけど、とにかく俺の心を鷲掴みにするには十分過ぎた。

 


 ……好きだ、なぁ……

 


 ゴクリ、と青井が息を飲んだ。
 急に首元に噛み付かれて、思わず声を上げた。
「そんな目で見られたら、加減出来なくなりそうだよ」
「そん、な目…って、」
「前にも言ったろ?キスしたくなるって。あんまり俺を煽らないで」
 足を持ち上げられて、ぐっと圧迫感が増した。
「……あっ、あ…、やだっ、痛ぁ…っ!」
「煽った責任取ってよ、蒼。しっかり俺を抱き締めてて」
「あお…っ、」
 ぐぐっと増していく圧迫感と同時にキスされて、頭がクラクラしたりチカチカしたりで、意識がぼやけそうになる。

 


 あぁ、どうしよう。
 マジで俺、青井に抱かれてる。
 青井は男の俺を抱いて気持ち悪くねぇの?
 あんなにスタイルいい元カノとじゃ比べモンにならないっていうのに。
 流されて我に返った後で後悔しない?

 


「蒼……」

 


 熱い吐息と共に名前を呼ばれれば、ごちゃごちゃ考えてた事がさぁっと影に隠れていく。
 腰を何度も揺らされて、自然に漏れる声すら押さえられなくなる。
 自分じゃないみたいだけど、これが俺。
 限界が近付くにつれて頭が、意識が薄らいでいく。
「もっ…、ダメ…っ」
「俺も。一緒にいこう」
「い、っしょ…?」
「あぁ、一緒に」
「あおい…っ」
「……そ、う」
 突き動かされてた腰の動きが止まり、腹の上にドロリとした液体が飛び散った。
 2人分の……欲望。
 吐き出した欲望とは、逆に気持ちは満たされていく。

 


 ……そうだ、わかった。
 青井がもし後で後悔しても、俺は後悔しない。
 この腕で抱き締めた事を後悔しない。

 


 それで、いいんだ。

 

 

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