■奏鳴曲〜君だけに奏でる恋歌〜 第14話

 

 ――――日常のちょっとした変化も、それが続けば日常となる。


「蒼、学食に行かないか」
「…おぅ」

 


 青井は学校でも、俺の事を下の名前で呼ぶようになった。
 教室の移動の時、昼休み、体育の時間や、途中までの帰り道まで。
 気が付けば、自然と一緒に行動することが多くなっていた。
「お前ら、いつの間にそんなに仲がよくなったんだよ」って祐樹がビックリするくらい《仲がいい友達》ってポジションになっていた。それが、心地よくも思ってた。
 青井と一緒にいると、ダルかった毎日が楽しく思えた。
 あんなにサボリ魔だった俺がサボる事もなくなって、美術準備室からも足が遠のいていた。
 好きなヤツと行動を共にする嬉しさ、ってやつを味わってた。

 


 その半面、徐々に大きく膨れ上がっていく想い不安に感じていたりもする。
 もし、俺が青井が好きだって事がバレたら、今の関係が崩れて青井の元カノのようになってしまうんじゃないか…青井が俺から離れていってしまうんじゃないかって、嫌な考えばかりが浮かぶ。
 元カノのように青井に冷たくされたら、俺はどうなってしまうだろ?
 二度と優しく微笑んでもらえなくなる事が、怖い。
 人を好きになるって楽しいだけじゃないんだな…って痛感する。
 ましてや同性、同じ男……世間では認められてない恋。
 まさに、玉砕覚悟の恋ってやつ!?
 まさか自分がこんな道を歩くことになるなんて、思ってもみなかった。
 人生はどう転ぶかわからないよなぁ…
 はぁ…
 青井のいない所では、溜息ばかり、だ。

 


 ――――日曜、午前二時五分


「蒼、大丈夫か?」
「…ったく、少しは加減しろよな…」
「ごめん、夢中になりすぎた」
 布団に突っ伏す俺の背中に、青井がキスをした。
 そんなんじゃ誤魔化されねーぞ……たぶん。
 今週も青井が俺の部屋に泊まりに来ていた。先週と同じく客用の布団を出す暇さえ与えられずに押し倒されて、そのままヤってしまった。
 意外と強引だよな、コイツ…
 力の入らない身体でのろのろと服を着て、毛布にくるまる。
 二人分の後始末を終えた青井も服を着て、隣に潜り込んで来た。
 布団一枚で男二人が寝るのには、ギュウギュウだ。
「来週の今頃は、北海道だな」
「あ〜〜…そっかぁ、もう来週だったっけ」
「そ。それに三日目は二人部屋で一緒だよ」
 …そうだった。1・2日目は旅館で大部屋だけど、3日目はホテルで二人部屋だった。
 適当に班名簿の上から組んだから、青井と一緒の部屋になったんだっけ。
「りょ、旅行中はこういうコトすんなよな」
「せっかく二人部屋なのに?」
「お前はいいけど、俺が次の日だりぃんだよ!それに、バレたらやばいだろ」
「残念。自粛しますか」

 


 修学旅行が終わったら、幹事も終わっちまうんだよなぁ…
 あんなに嫌がっていたのに、いざ終わりが近付いて来ると淋しくなってくる。
 幹事になってなかったら、青井と仲良くなることもなくて、話さえしなくて、名前を知っているだけのクラスメイトで終わってたんだろうなぁ…。
 仮にライブハウスで正体を知ったとしても、ここまで仲良くなれていたかはわからない。ただのファンで終わっていた可能性の方が高いと思う。
 本気で好きになる事なんて、きっとなかった。
 幹事が終わったとしても、青井は一緒にいてくれんのかな?
 共通点がなくなって、ただのクラスメイトに戻ったらどうしよう…

 


 ……やべぇ、また怖くなってきた。

 


「急に黙って、どうかした?」
「…別に。…その、北海道って何がうまいのかなって考えてた」
「その辺は笹本や工藤がチェック済だろ。コース表にもラーメン屋の場所とか書き込んであったよ」
「祐樹は、うまい店見つけんの得意だからな。札幌は味噌ラーメンかな、やっぱ」
「王道でいくとそうだろうな。函館なら塩だろうね」
「あ〜、塩もうまそうだよな。あと、海鮮丼とかもうまそうじゃねぇ?」
 怖く思う気持ちを押さえ込んで、空がうっすらと明るくなってくるまで北海道の名産の事を話した。
 やがて青井から寝息が聞こえてきても、俺は眠れずにいた。

 


 ……怖いよ、青井。

 


 再来週のこの時間、俺達はどうなってんのかな…?
 起こさないように、青井の腕にそっとしがみ付いた。

 

 

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