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■奏鳴曲~君だけに奏でる恋歌~ 第15話

 

 修学旅行当日。北海道は、快晴だった。
 ここまで来れば幹事の仕事は、点呼を取って報告するだけの簡単な仕事だけだった。
 新千歳空港から札幌の市街地まで移動して、時計台の前で集合写真を撮ってから、班別の自由行動となった。
 お約束通り味噌ラーメンを食べたり、出店のとうもろこしを食べたり、食べ歩きツアーと化していた。
「口の周りがすごいよ、蒼」
 俺の隣で、青井が笑う。小食の青井は、とうもろこしは辞退。
「めっちゃ甘いぞ、コレ。食わないなんてもったいねぇ」
「じゃ、一口くれる?」
「…お、おう」
 とうもろこしを持っていた俺の手を引き寄せて、青井がとうもろこしを齧った。
 それだけの事なのに、どきっとしてしまう。
「…甘いな」
「だ、だろぉ?」
 あ~~~コイツ、タチが悪い。
 俺が赤くなるのわかっててやってんじゃねぇのか…?

 


「お~~~いっ!青井、蒼、集合ぉ~~~!!」
 すっかりリーダー気取りの祐樹が、俺達を呼ぶ。祐樹の所に行くと、なぜか違うクラスの女子のグループがいた。
「ここからこの子達と一緒に行動すっからよ。みんな、楽しもうぜ!」
「…は?」
 突然の展開に、俺と青井は顔を見合わせた。
「青井、聞いてた?」
「いや、初耳」
 祐樹のヤロー、勝手に決めやがったな。
「一緒に写真撮ろ~、青井君!」
 祐樹に文句を言おうと青井から離れた間に、青井は二人の女子に押されるようにして行ってしまった。…なんだよ、アレ。
「おい、祐樹。どういうコトだよ?」
「だって、ヤローだけじゃ盛り上がりに欠けるじゃん?…言っておくけど、幸にはナイショにしておけよ。言ったらどうなるかわかってるよなぁ?蒼ちゃん」
 眼がマジだし、絶対言うなよって事だよな。…なんなんだ、いったい。

 


 結局残りの自由時間は、名前も知らない女子達と過ごすハメになってしまった。
 青井は女子に捕まったまんまで会話も出来なくなっちまったし、俺も捕まって写真撮られたりして不機嫌極まりない。
 宿泊先に戻っても大部屋なもんだから、いろんなクラスの女子が顔を出して来てうるせーったらありゃしない。
 そのうちに青井が女子に呼び出されたりして、不機嫌を通り越してイライラしてきてしまった。
 女子の行動力には、改めてすげぇと感じさせられる。
 来るもの拒まずがモットーの青井は、この旅行で新しい彼女が出来ちまうのかな…。
 修学旅行でカップルになんのも、一種のお約束なモンだし?ひょっとすると、すでにもう彼女が出来ちまってるかもしれない。
 胸が、ズキンと痛くなった。
 あ~~~~~こんなんだったら、やっぱ旅行なんてサボればよかった!なんでこんなにイライラしなくちゃなんねーんだよ!!
 騒がしい部屋の片隅で、イヤホンつけて曲ガンガンにかけて布団に潜り込んだ。
 祐樹がバンバンと布団の上を叩いて呼んでたけど、無視してやった。
 イヤホンから流れるベース音を聴いて、眠ることに専念した。
 胸は、痛いまんまだった。

 

 


 修学旅行ラスト二日。連日のイライラで、すでに俺は疲れ切っていた。
 自由行動では常に女子のグループが一緒だったし、二日目からは音楽聴きっぱなしにして人を寄せ付けないバリアを張っていた。
 青井の周りには常に女子がいて、点呼の時にしか会話も出来なかった。
 それも、一言二言くらい。…はぁ。

 


 最終日前日の夜はホテルで夕食を食べた後、またバスに乗り込んで函館の夜景を見に行った。
 初めて見る函館山の夜景は、すっげぇ綺麗で光が生きてるみたいにギラギラしてた。
 こんな綺麗な景色もあるんだなって、ぼーっと見とれてしまった。
 しばらく夜景を見てると、両耳から流れてた音楽が片耳しか聴こえなくなった。
「綺麗だな」
「……!」
 青井がいつの間にか隣に来てて、俺のイヤホンを自分の片耳に付けてた。
「旅行中、ずっとコレ聴いてたんだ」
 エンドレスで聴いてた《不即不離》のCD。肯定するのもなんとなく悔しくて、首を横に振った。
 胸がドキドキとうるさい。風が冷たいのに、顔も熱くなってくる。
「…綺麗だな」
 青井が、また同じ事を言った。夜景でも見てるのかと思ったら、目が合った。
 あの優しい表情で、俺を見てた。

 


 青井が、俺だけのモノだったらいいのに。

 


 その表情も、手も、足も、背中も、声も、唇も…全部全部、俺だけのモノに出来たらいいのに。

 

「…なぁ、青井」
 夜景の魔力にかかってしまったのかもしれない。
 玉砕覚悟の恋。
 せめて告白くらいは、ドラマみてぇなシチュエーションでもバチは当たらないよな。
 玉砕して砕け散っても、この夜景が悲しみと苦しみも一緒に吸い取ってくれる。
 旅行が終われば、フツウのクラスメイトに戻るケジメにもなる。
 今しか、ない…。

 


「俺…っ、あお…」
「そ~~~~~う、青井ぃ~~~!集合~~!!」
「…………」
 なんてお約束なんだ…。
 悲しみどころか、言おうとしてた言葉が夜景に吸い取られてしまった。
「…蒼?」
「なんでもねぇ、行くぞ!」
 青井の耳からイヤホンを奪い取って、祐樹の方へとズカズカと歩いていく。

 


 ……告白さえ許されねぇのかな、この恋は。

 


 だったらいっそのこと、この気持ち全部全部夜景に吸い取られちまえ…!!!

 

 

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