人は変わるものなんだ。
「ナツ〜!カラオケ行かない?3−3でさぁ」
廊下歩いてたら、一年の時に同じクラスだった女に呼び止められた。
やけに甘ったるい匂いが、やたら鼻につく。
「それ、合コンじゃん。玲音目当てなの知ってるし」
「ちゃんとナツ狙いの娘もいるって」
前まではオンナノコからの誘いは素直に嬉しかった。……あの人に会うまでは、の話。
「わりぃ。合コン卒業したから」
「え〜〜!?なにそれぇ」
何か言ってたけどスルーして、曖昧に笑ってその場から去る。
オンナノコは柔らかいし、長い髪とかいいし、あわよくば…なコトもあったし、嫌いな訳じゃない。
オンナノコの甘い匂いも好きだったけど、今はスパイシーな香りの方が断然好き。
単刀直入に言えば、あの人以外は恋愛対象外なんだ。
それが、今の俺なんだ。
<< アタラシイキモチ >>
昼休み。玲音といつものように中庭の日陰で昼飯タイム。
購買で買ったパンを口に運んでると、玲音がカフェオレを振りつつ言った。
「浮かれた曲作ったワケ、わかった」
「ふにゃ?」
「今度は、どんなヤツ?」
口の中にあったパンをごくん、と飲み込む。
玲音の言ってる事はすぐわかった。俺が今付き合ってる人の事を教えろって事だ。
そうかそうか、知りたかったら仕方ないな。
待ってましたと言わんばかりに、あの人の事を思い出しながら好きな所を上げていく。
「すっげー優しいし、見た目も仕草も綺麗だし、いい匂いするし、華奢に見えて実は細マッチョだし、落ち着いてるし、オットナーって感じで…」
「ちょっと待て」
「……え?まだあるよ」
ノってきたトコで止められて、ちょっと消化不良。
あの人のいいトコは、いっぱいいっぱいあるのに。
「お前…、相手は男か?」
玲音が眉間に皺を寄せて聞いてくる。そっか、そこから説明しなくちゃか。
「そうだよ。しかも10歳も年上っ」
両手をぱっと広げて見せたら、玲音の目がカッと大きく見開いた。
眼力を感じて、開いた両手をそろっと下ろしてみる。
「10歳年上のオトコねぇ…」
ちゅう、と小さな音を立ててストローでカフェオレを飲む玲音。
「ま、ナツには年上の方がいいとは思ってたけど、予想の遥か上をいったなぁ。しかもオトコって…。お前、どっちもイケたんだな」
「誰でもイケる訳じゃねーよ。みやびさんだからだよ」
「ふーん、ミヤビサンねぇ…」
玲音が何か考えるような素振りを見せた後、カフェオレを地面に置いた。
そして、俺をじっと見て言った。
「っていうかさ、そんな大人が本気でナツの相手してくれてんの?」
一瞬、何を言われてるのかわからなかった。
でも段々その意味がわかってきて、カッと頭に血が上った。
「なんだよ、それ!!俺が遊ばれてるってーの!?」
ぐにゃっと手の中でパンが潰れた。
俺が声を荒げた事に驚いたのか、玲音の視線が外れる。
しばらく沈黙が続いて、次に聞こえたのは小さな溜息と玲音の静かな口調。
「恋愛に関してはテキトーだったお前が、いつになく本気みたいだからさ。……ダチとしては心配なんだよ」
「玲音…」
「悪いな、余計な事言っちまって」
すーっと血が下がっていく。
そうだよな。冷静に考えりゃ、周りから見たら心配な要素たんまりな関係なんだよな…。
相手が同性ってコトも、年齢差があるってコトも。
「……心配してくれて、サンキュ、な」
素直に礼を言うと、玲音の視線が戻って来た。
「捨てられねーように、オトコ磨くさ!」
「あっそ。せいぜい頑張れ」
「頑張るっつーの」
べーっと舌を出して見せた後、手の中で潰れたパンを口の中に放り込んだ。
見てろ。心配どころか安心させられるような関係になってやるからな。
口には出さずに、心の中で決意表明。
「……で、参考までに聞きたいんだけど、さ」
「ん?」
玲音が周りを見渡した後に、小声で聞いてきた。
「お前が……下なんだよな?」
下???あー…なるほど。ソッチの話か。
「えーーっと…、時と場合により?かな」
「はぁぁぁ!?!?そんなパターンもあんのかよっ!?」
小声が一転、大声で驚く玲音が新鮮で面白い。
こんな玲音は貴重だから、つい調子に乗ってしまう俺。
「それがさー、あったんだよっ!すごくね!?」
「一度で二度オイシイみたいな?」
「そう考えたコトなかったけど、確かに二度オイシイかも。どっちも気持ちいいし」
俺が上の時は余裕がなくていっぱいいっぱいだってコトは伏せておく。
いつか余裕たっぷりで翻弄したい、っていうのが俺の願望。
「はーー…、お前の事を今度から師匠って呼ぶわ」
「なんでだよっ」
「いや、ちょっとウラヤマシーとか思っちゃって、さ」
そう呟くように言った玲音は、笑ってんだけど何処か淋しげだった。
ハッキリとは言わないけど、玲音にも本命がいる。
何年も何年も想い続けてる幼馴染のヤツ。
いかにも体育会系で、俺らとは正反対のタイプ。
でもさ、ソイツといる時の玲音ってなんか違うんだよなぁ。説明出来ないけど、なんか違うんだ。
「ま、そのうち玲音も追いつくさ。エロイ顔してるし」
「誰がエロイ顔だ!」
淋しさの表情は消えて、むっとした表情。
うん、こっちの方がまだ玲音らしい。
……玲音も幸せになればいいな。
「今度初めて外でデートすんだけど、いい場所知らね?」
「あ?知るか、そんなの」
「やっぱリーダーにでも聞くかぁ」
「……、待て」
玲音の声のトーンが急に落ちた。今度はなんだ!?
「いいか?リーダーには恋人がいる事はバラしてもいいけど、相手の事は黙っておけ」
「えー、なんでだよ?」
「俺以上に心配するからに決まってんだろ?ああ見えて、人一倍心配性なんだぞ」
玲音の言葉に、反論出来ない。
リーダーはいかにも体育会系なのに、性格は繊細で心配性でもあるんだ。
連絡した時間に遅れると『どうした?何かあったのか?』ってすぐメール来るし、体調が悪いとか言えばすぐに病院に連れて行こうとするくらい。
ヘタすりゃ「相手に会わせろ!」くらい言ってきそうだな…。
「相手の事を言うのは、もうちょっと月日が経ってからにしろ」
「……そうする」
「それと」
「まだあるのかよ」
「バンドモードの時は浮かれ気分は封印して、曲調は戻せよ」
「わかってるって」
「間違ってもデート行った日の夜とかに思いついた曲とかやめろよ。ぜってーやめろよ」
まんまと先を読まれてる…。
「わかったか?」
「わかったってば〜。じゃあさ、話は聞いてくれるよな?」
「あ?」
「さっきの続き!まだまだ好きなトコいっぱいあるんだよね〜」
「……うぜぇ」
この後語りまくって、玲音に心底ウザそうな顔をされたのは言うまでもない。